「ぁあ、ごめんごめん、大丈夫?」
神経に触ってしまったようだ。
と、痛みが走った。気のせいじゃない。
緊張感で押さえられたり引っ張られたりしても痛みに思えてしまう。が、
確かに痛んだ。
局所麻酔をしてくれたようだ。
前回には終わり掛けに鈍い痛みに襲われた。麻酔が切れかかったらしい。
今回はこれで最後まで痛みを感じずに終わって欲しいなぁ。
緊張を和らげる術がなく、そうだ、歌を歌おう、歌を!
それで気が紛らわせる。
え~っと、何を歌おう、調子のイイ歌がいいな、アップテンポの・・
え~っと、何がイイかな・・・・
「心臓バイパス手術には、どこの血管を使った?」
「両脇のところの動脈2本と右足の静脈です。」
「そうか、動脈は持って行かれなかったんだ、良かった。」
「はぁ。」
手術中に先生と話をするなんて、スゴイ。
声を出すことで緊張感が和らぐ。それがネライだったのかな。
歌のことはどこかへすっ飛んだ。
「大丈夫?動脈と静脈を繋いでますからね、あと少しね。」
「はい、ありがとう、大丈夫です。」
どのくらい経ったかなぁ。30分位かなぁ。
血管繋いでるんだからもう終わりだよなぁ。
「大丈夫?皮膚を縫って終わりですからね。」
え?もう?
やった、もう終わりだ。
「はい、終了しました。うまくできましたよ。」
「ありがとうございました。」
一回目よりずいぶん短く感じた。
手術室の時計を見ると、手術時間48分となっている。
腕の良い先生だからと、かつての主治医に勧められた先生で、
今回も手際よく手術してくれたようだ。
「これで今夜、普通に透析できるからね。」
「え?ほんとですか。ありがとうございます!」
(
つづく)